生物チャレンジ2010 第一次試験

第一次試験 出題と正解・解説 ダウンロード

日本生物学オリンピック「生物チャレンジ2010」第一次試験の「問題」と「正解・解説」を掲載します。

exam_1第一次試験 出題問題 ダウンロード (3.4 MB)

ただし、問14 ) および25)の問題文の中で、選択肢の範囲を示す2箇所にミスがありました。 なお、正解は変わりません。

anser第一次試験 正解と解説 ダウンロード (450 kB)

第一次試験 得点分布

point distribution

   平均点 31.7  標準偏差 13

第一次試験の代表的な問題

問3~4)

ユープロテスはゾウリムシに近縁の原生生物(繊毛虫下毛類)である。繊毛虫類の特徴は,通常の栄養増殖に関与する大核と,生殖時にのみ活動する小核という2種類の核をもつことである。ユープロテスの核を酢酸オルセインで染色したところ,表1に示すような4通りの染色パターン(タイプ①~④)を示した。これらはそれぞれ,細胞周期の4つの異なる時期に対応している。
タイプ①の細胞では,大核に加えて,小核が1個存在していた。タイプ②では,細胞の中央部にくびれ(矢印)が生じており,小核は2個存在していた。タイプ③では,小核は1個で,大核の中には帯状の染色が薄い構造が出現していた。この構造には,放射性同位元素でラベルしたチミジンが取り込まれることが知られている。タイプ④の細胞は,タイプ①やタイプ③よりかなり細胞が大きく,とくにタイプ①に比べると2倍近い大きさだった。また,大核は太く短くなっており,小核は1個だった。
ランダムに500個の細胞を観察したところ,表1に示すような出現頻度でそれぞれのタイプの細胞が観察された。

表1 核を染色したユープロテスのスケッチと各ステージの細胞の出現頻度

タイプ①

タイプ②

タイプ③

タイプ④

細胞の外形と
核の形状

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観察された細胞数

291

24

139

46

問3)

タイプ①~④の細胞は,それぞれ大核に関する細胞周期のどの時期にいると考えられるか。正しい組合せをA~Jから選べ。(2点)

G1期

S期

G2期

M期

A

B

C

D

E

F

G

H

I

J

(G1期:DNA合成準備期,S期:DNA合成期,G2期:分裂準備期,M期:分裂期)

問4)

タイプ③の細胞において,帯状構造は大核の両端にまず形成され,それが一定の速度で中央部に向かって移動する。2個の帯状構造は最終的に大核の中央部で出会い,その後消失する。形成されてから消失するまでに要する時間が約5時間であるとすると,このユープロテスの細胞周期が一巡するのに要する時間はどのくらいであると考えられるか。最も適当なものをA~Jから選べ。なお,この細胞集団は細胞周期に関してランダムになっているとする。(2点)

A.5時間     B.7時間     C.9時間    D.12時間    E.15時間
F.18時間    G.21時間    H.24時間    I.27時間    J.30時間

問11)

種子の発芽に際しては,種子の中でつくられるジベレリンが重要な役割を果たしている。発芽に適した条件の下で,オオムギなどの穀類の種子を吸水させると,胚のジベレリン合成が高まる。胚で合成されたジベレリンは,胚乳を取り巻く糊粉層にはたらきかけて,デンプン分解酵素の発現を誘導する。デンプン分解酵素は胚乳に分泌され,胚乳のデンプンを分解してグルコースにする。胚はこのグルコースを利用して成長し,発芽に至る。
 一方,アブシシン酸は,種子の発芽に対して阻害的にはたらく。穀類の種子の吸水時にアブシシン酸で処理したときには,胚乳のデンプンの分解が起きないこともわかっている。
ある生物クラブでは,アブシシン酸のこの作用が,ジベレリン合成の抑制によるのか,それより後の段階の抑制によるのかを知りたいと思い,いろいろな条件でオオムギの種子を処理し,胚乳のデンプン分解の有無を調べてみることにした。次のA~Fに示す条件のうち,この生物クラブの目的にとって有用な情報を与えるものはどれか。(3点)

A 胚を取り除いたオオムギ種子を,アブシシン酸だけを含む水に浸す。
B 胚を取り除いたオオムギ種子を,ジベレリンとアブシシン酸の両方を含む水に浸す。
C 糊粉層を取り除いたオオムギ種子を,アブシシン酸だけを含む水に浸す。
D 糊粉層を取り除いたオオムギ種子を,ジベレリンとアブシシン酸の両方を含む水に浸す。
E 胚と糊粉層を取り除いたオオムギ種子を,アブシシン酸だけを含む水に浸す。
F 胚と糊粉層を取り除いたオオムギ種子を,ジベレリンとアブシシン酸の両方を含む水に浸す。

問15)

ある時点での生物の個体数(Nt)は,次の時点での個体数(Nt+1)と一定の関係をもっていることが多い。図1の曲線は,3種類の生物(①~③)において,その関係性を示したものである。また点線で示した直線Xは,Nt+1 = Nt に相当する。いま,初期の個体数(N1)が矢印の値から出発した場合,生物①~③の個体数の時間的変動は,それぞれ図のア~エのどの様式に該当すると考えられるか。最も適当な組合せをA~Hから選べ。ただし,ア~エの縦軸の縮尺は任意である。(3点)
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       図1:個体数の関係性

 

A

B

C

D

E

F

G

H


第一次試験の代表的な問題の正解と解説

問3~4) 【正解】 問3 B   問4   F

【解説】ユープロテス(和名はミズヒラタムシ)は,繊毛虫類に属する原生生物であり,ゾウリムシなどと同じ分類群に属する生物である。繊毛虫類の特徴は,大核と小核という2種類の核を持つことであり,この問題では大核の複製と細胞周期に関して設問されている。昨年ノーベル賞を受賞したグライダーとブラックバーンは,ユープロテスに近縁の繊毛虫であるテトラヒメナをもちいて,テロメラーゼを発見している。テロメアやテロメアーゼの研究には繊毛虫はよい研究材料であるので,ユープロテスも核内における遺伝子の再配置を研究するためのよいモデル生物として注目されている生物の1つである。繊毛虫の大核の分裂は,分裂装置の形成を伴わない,いわゆる無糸分裂の例として有名である。また,S期にはDNA合成を行う特殊な構造(複製帯)が現れるという点も多細胞動植物とは異なっている。しかし,細胞周期がG1→S→G2→Mと進行するという点では他の生物群の細胞周期となんら変わりはない。この問題文でも扱っているこの生物の興味深い点は,それぞれの細胞周期の時期(G1期,S期,G2期,M期)のすべてにおいて,核の形状が明瞭に異なり,簡単な顕微鏡観察で判別が可能であるという点である。この特長により,ユープロテスをもちいた実験は,細胞周期を理解する上で扱いやすく,きわめてわかりやすい。このため,この実験は国内外の多くの大学の一般教養レベルでの生物学実験でもちいられており,日本の高校でも生物の実験に取り入れられ始めている。
タイプ③の帯状構造は,S期の大核に生ずる「複製帯」である。チミジンが取り込まれることからこの部分でDNAが複製されることがわかる。このことから,この時期はS期であると判断できる。タイプ②は細胞の輪郭にくぼみが生じているのでM期であることがわかる。タイプ④は細胞の大きさから,分裂直前のステージ,つまりG2期と推測できる。したがって,残るタイプ①はG1期であることがわかる。
S期の細胞の出現頻度は,139÷500=0.278 である。これに5時間を要することから,全体の時間は5÷0.278=約18時間となる。

問11) 【正解】 B

【解説】AとC~Fでは,アブシシン酸のデンプン分解阻害の作用メカニズムによらず,デンプンの分解が起きない。Bでは,アブシシン酸がジベレリン合成より後の段階に作用する場合にはデンプンの分解が起きず,そうでない場合にはデンプンの分解が起きる。したがって,生物クラブの目的にとって有用な情報を与える実験はBのみである。ただし,Bの実験でデンプンの分解が起きなかったときに,アブシシン酸がジベレリン合成段階に作用せずそれより後の段階にのみ作用するのか,ジベレリン合成段階とそれより後の段階の両方に作用するのかは判定できないので,この点注意が必要である。なお実際には,アブシシン酸はジベレリンによるデンプン分解酵素遺伝子発現の誘導を妨げることが示されている。


問15) 【正解】 B

【解説】問題の図1は個体群の非線形な成長様式を,連続する2世代の個体数の対応関係から図化したものである。まず初期個体数を起点として,縦軸方向へ垂線を延ばし,各曲線との交点を求める。この交点の縦軸の値が次世代の個体数となる。次にこの値を横軸にして,同様な操作を繰り返すことで,さらに次の世代の個体数を求めることができる。それ以降の世代についても同様である。たとえば,図のような対応関係では,N1 = 1000が初期個体数であると,2世代目の個体数はN2 = 4000になる。同様に,N3 = 2000,N4 = 3000,N5 = 2400になる。
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①では個体数が順次減少し,絶滅に向かう。希少種でよくみられる。②は典型的なS字成長(ロジスティック成長)を示すものである。③は内的増加率が高い場合で,密度効果が時間の遅れをともなって強くはたらくため,個体数は周期振動する。

第一次試験の様子

全国各地の会場で2010年7月18日に第一次試験がおこなわれた。

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第一次試験の会場

第一次試験会場一覧とそのほかの情報

会場に変更がなされる場合には会場変更のしらせでお知らせします

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